スマホシフト以来の衝撃。「クッキーレス」に踊らされていないか

Google Chromeが2023年末を目途に「サードパーティクッキー」のサポートを終了すると発表した。

これまでのデジタル広告の根幹とも言えるサードパーティクッキーを活用したターゲティングが従来通りには立ち行かなくなり、多くの企業がマーケティング・広告戦略の見直しを迫られているのだ。

では、この事態にどう立ち向かっていくべきか。

売上シェアNo.1の広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」を提供するイルグルムの吉本啓顕氏とMeta Japan(旧Facebook Japan)の黒木壮太氏の対談から、次世代マーケティングのヒントを探る。

※日本マーケティングリサーチ機構調べ(2021年6月期 指定領域における競合調査)

デジタルマーケティングの「見直し期」到来

黒木壮太(以下、黒木) ここ数年で、「クッキー規制」「クッキーレス」という言葉をよく耳にするようになりました。

一連の動きは、クライアントである広告主や私たちMeta(旧Facebook)などプラットフォームが、丁寧に対応しなければならないアジェンダだと捉えています。

吉本啓顕(以下、吉本) 長くこの業界にいますが、まったく同感です。

私たちは、広告効果測定プラットフォーム「アドエビス」を通じて、日々多くのクライアントを支援していますが、特に直近1年は、クッキー規制関連での問い合わせもぐっと増えましたね。

黒木 「クッキーとは何か」と聞かれた時、私は「パーティ会場のリストバンド」がイメージに近いかなと考えています。

パーティ会場で入場料を払うと、再入場をスムーズにするためにリストバンドがもらえますよね。

同じように、クッキーも一度どこかのサイトにアクセスすると、ログが残り、別のサイトにアクセスした時でもそのログをサイト側が把握できる仕組みになっています。

クッキーも、利用者の体験をスムーズにするために生まれた技術ですが、それが行き過ぎた結果、プライバシー保護の観点から問題視されるようになりました。

吉本 クッキーを活用したターゲティング広告が筆頭ですが、通販サイトを閉じた後に、見ていた商品がまったく別のサイトでレコメンドされると、便利だと感じる人もいれば、気持ち悪いと感じる人もいますからね。

デジタル上でのプライバシー保護でいうと、 2017年にApple社が Safariに「 ITP」というトラッキング防止機能を搭載し、その後 GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が施行。

日本でも今年4月から改正個人情報保護法が施行されるなど、流れが徐々に加速している印象があります。

黒木 業界でグレーゾーンになっていた部分に、しっかりメスが入りましたよね。

もちろん、短期的には利用者の情報が少なくなるので、今までのマーケティング戦略だけでは立ち行かなくなります。

ですが、利用者との中長期的な信頼関係を築くという意味では、非常にポジティブな動きだと思います。

クッキーは本当に「悪」なのか

吉本 ただ、クッキー規制に対する誤解も多いと感じます。

たとえば、「クッキー規制によってすべてのクッキーが使えなくなる」というもの。

クッキーには2種類あり、今回問題視されているのは、サードパーティクッキー=利用者がアクセスしたWebサイト以外が発行したクッキーです。

もう一つのクッキー、ファーストパーティクッキー=利用者がアクセスしたWebサイトが発行するクッキーは今まで通り活用することができます。

ここがスルーされて、「クッキー=すべて悪」という風潮が独り歩きしているのでは、と。

黒木 たしかに、「クッキー規制」「クッキーレス」という言葉だけ聞くと、そうした誤解が生まれるのも頷けます。

吉本 ええ。ですが、これからは自社内でファーストパーティクッキーを活用し、ファーストパーティデータを収集・保有する動きがより強くなります。

たとえば、サイト内での登録情報や行動履歴を元に、ファーストパーティクッキーを使ってパーソナライズ広告を配信するなど、これまでよりもさらにスムーズに利用者に情報が届けられるようになるのです。

黒木 サードパーティクッキーの規制によってサイトをまたいだターゲティング広告の配信は難しくなりますが、むしろ自社内で利用者と密にコミュニケーションを取るチャンスでもあります。

たとえば、オウンドメディアのコンテンツを拡充したり、アンケートを実施したりといった方法が考えられるでしょう。

吉本 実際、私たちアドエビスも2017年から、広告クリックのコンバージョン計測をサードパーティクッキーからファーストパーティクッキー主流に切り替えました。

今後も、ファーストパーティクッキーデータを活用した広告効果測定を支援していきます。

アドエビスのサービス管理画面の様子。

黒木 Facebookも、2020年からサードパーティクッキーに依存しない「コンバージョンAPI」という計測方法を推奨しています。

利用者の合意のもと、クライアントのサーバーから直接Facebookへ利用者のデータを送信してもらい、最適な計測を行うのです。

プライバシー保護とユーザビリティの追求は二項対立で語られがちですが、きちんとした仕組みを作れば、両立できるものだと考えています。

「顧客理解」がマーケティングの肝に

黒木 クッキー規制によって、マーケティングの成果もよりシビアに求められるようになるでしょう。

ファーストパーティクッキーは、自社が抱えるデータなので、より正確に購入者を名寄せ(データベース内で情報を統合すること)できます。

つまり、広告主やパブリッシャー(広告を掲載する媒体など)にとっては、これまで以上に各施策の成果が可視化されるようになるのです。

iStock:D3Damon

吉本 より透明度の高いマーケティングができるのはいいことですが、担当者の説明責任は重くなりますよね。

正しいレポーティングに欠かせないのが、自社のマーケティング状況を俯瞰して把握すること。

たとえば、何にどれくらい広告費を使っているのか、どの施策でどんな効果が出ているのか、いくら売上につながっているのか、です。

これまでは、これらをクッキーから計測するのが一般的でしたが、規制によって正確な成果の把握やレポーティングが困難になってきた、というご相談をよくいただきます。

そこで、我々のようなファーストパーティクッキーをファーストパーティデータとして管理できる広告効果測定ツールを活用いただくケースが多いですね。

黒木 投資対効果を把握するのは重要です。あわせて、自社が持つ顧客データの棚卸しや管理フローも見直せると理想ですね。

これまでの広告運用は、コンバージョンが取れればOKという世界でしたが、今後は顧客を正確に理解し、いかにデータを活用できるかがポイントになる。

データは、広告に限らず今後のビジネス全体の要になるものですから。

iStock:Tempura

吉本 そうですね。今後は、自社サービスの顧客情報やファーストパーティデータを一元管理しつつ、ファーストパーティクッキーを組み合わせて分析するなど、統合的に顧客理解を深められるかが重要になります。

広告運用においても、自社データを活用したマーケティングがさらに一般化していくでしょうね。

クッキー規制は「組織設計」にも影響する

吉本 クッキー規制は組織設計にまで波及する話だと考えています。

これまでは、マーケティングチームだけでも広告運用やデータ運用が完結していました。

ですが、今後ファーストパーティデータを活用していくと考えると、エンジニアチームやリーガルチームとの連携がマストになります。

クッキーをサイト内で発行したり、プライバシーポリシーを整えたりと、マーケティングの領域を超えた、さまざまな対応が必要になるからです。

黒木 エンジニアリソースの不足は各社の課題なので、なお横串の連携が必要になるでしょうね。

マーケティングチームとの意思決定をスムーズに行えれば、タスクに優先順位を付けてリソース配分ができますから。

吉本 おっしゃるとおりです。追うKPIもこれまでとは違うはずなので、人事評価制度も含めて見直していく必要があります。

黒木 ただ、私も前職は広告主サイドにいたのでわかりますが、この仕事に携わる人たちは皆忙しい。なので、一気にすべてを進めるのは大変だと思います。

その意味でも、アドエビスさんのようなプラットフォームによって、正しくコンサルテーションしてもらうことは、大きな助けになるのではないでしょうか。

クッキー規制に関連する対応も前線で取り組まれているので、安心して任せられるんだろうな、と。

プラットフォームの導入だけでなく、その後の運用支援プログラムがあるのも、アドエビスの特長だ。

吉本 ありがとうございます。

クッキー規制や個人情報保護に関する情報は、社内に専門チームを置き、常に最新情報をウォッチしていますし、サービスにも迅速に反映ができる体制を整えています。

その点でも安心してご相談いただけると嬉しいですね。

スマホシフト以来の転換点が来た

黒木 クッキー規制は、企業にとってガラケーからスマホへのシフト以来の転換点になると考えています。

利用者との短期的な関係ではなく、いかに良好で中長期的な関係を築けるかの、です。

この話は組織体制やデータ活用、予算配分など、ビジネスの根幹に関わるので、ぜひ経営者の方、ひいてはすべてのビジネスパーソンに自分ごと化してもらえるといいですね。

吉本 同感です。まずは、自社で扱っているデータがプライバシーの観点で問題がないか、そしてどこにデータが格納されていて、どこまでの利用が消費者から承認されているか、などの把握が急務でしょう。

その上で、現場だけで業務プロセスを変えるのではなく、経営自体の変革が必要なケースもあるかもしれません。

今後のデジタルマーケティングにおいて、データとテクノロジーはますます重要になりますが、各企業が複雑なプライバシー技術を理解し、データを蓄積・活用するのは、単独では難しい問題だと思います。

私たちテクノロジーベンダーも、お客様のデータ環境の整備をお手伝いし、ビジネスパートナーとして事業の成長に貢献できるよう、ともに進化していきたいですね。

※本記事はNewsPicks Brand Design様より許可を頂き転載したものです。掲載記事原文はこちら
(制作:NewsPicks Brand Design 編集:高橋智香、大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:Seisakujyo)